高齢になると、いつどのような病に襲われるか心配になるものです。
身体的な制限が発生する病気だけでなく、認知症のように判断能力が低下する病気もあります。
認知症になると家族の存在すら忘れられる場合があり、家族にとってはとても悲しいものです。
実際に認知症になってしまうと完治することはまず困難であり、まだ認知症が発症する前に準備しておくことは実に多くあります。
特に、相続対策は本人の意志がはっきりしているうちに進めると、後々トラブルを回避できるので、是非やっておきたいものです。
では、認知症になる前にどのような相続対策を実施すべきナノでしょうか。
この記事では、親が認知症になる前にやっておくべき相続対策について解説します。
認知症になると相続対策ができない?
親が認知症となってしまった場合、実際に相続対策ができなくなるのかが気になります。
もし、親が認知症になった場合と、相続人が認知症となった場合の問題点は、以下のとおりです。
親が認知症になった場合の問題点
民法において、認知症を患った人については判断能力のない者として扱われてしまう可能性が高いです。
さらに、判断能力がない人がおこなった契約行為などは、全て無効になってしまう可能性が高いです。
法律行為だけでなく、相続対策についても判断が必要となる項目があり、認知症の方が相続対策をおこなったとしても無効となってしまうことがあるのです
相続対策において、以下の行為が法律行為となります。
- 生命保険の加入や請求行為
- 不動産の管理や修繕、売却
- 預金口座の解約、振込、引き出し
- 遺言書の作成
- 遺産分割協議への参加
- 子供や孫などへの生前贈与
以上は、相続対策として重要となる項目ばかりが該当するため、認知症になってしまうと大切な相続対策がほぼできなくなるのです。
相続人が認知症になった場合の問題点
相続人にとっても、法的行為が多く必要となります。
もし、相続人が認知症によって適切な判断ができなくなった場合。相続手続きで必要となる遺産分割協議をおこなえません。
ただし、認知症の程度が軽く遺産分割協議に参加する能力があれば、遺産分割協議への参加が可能ですが、参加の可否は医師が判断します。
相続人が認知症を患い遺産分割協議できない場合、遺言書が作製されていない場合は、遺産は民法で定められた法定相続分によって、すべての財産を相続人が相続する形となります。
また、成年後見人が相続人の代わりになって相続放棄することも可能です。
親が認知症になる前に行うべき相続対策
親がいつ認知症になるか分からない場合、早い段階で相続対策を行っておくのがおすすめです。
ただし、すべての相続対策を実施する必要はなく、あくまでも法的行為を中心に対応する必要があります。
認知症になる前におこなっておきたい相続対策として、以下があります。
- 遺言書を作成する
- 成年後見制度を活用する
- 家族信託を利用する
- 生前贈与を行う
各対策の詳細について、詳しく解説します。
遺言書を作成する
もし、認知症のテストとして医療機関で利用されている、長谷川式スケールの認知症簡易診断プログラムで30点満点中20点以下となると、作成した遺言書は無効となってしまいます。
このように、定量的な評価で遺言書が有効かどうかが判断されるほど、遺言書はとても重要なものとなります。
遺言書には、以下3つの種類があります。
自筆証書遺言:遺言者が遺言書の全文や日付、氏名を自筆して、押印して作成する形式。特別な手続きをする必要はない。遺言書を勝手に開封してはならず。家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受ける必要がある。
公正証書遺言:2人以上の証人の立会いのもとで、公証人が遺言者から遺言内容をヒアリングしながら作成する形式。遺言者本人であることを証明するため、実印と印鑑証明書を準備して2人以上の証人と一緒に公証役場に訪問、公証人に遺言の内容を伝えて遺言書を作成する。
秘密証書遺言:遺言者が作成した遺言を2人以上の証人と一緒に公証役場に持参し、遺言書の存在を保証してもらう形式。遺言者が署名と押印だけ対応すれば、遺言書を代筆してもらってもよい。遺言書は、遺言者自身で保管することになる。
遺言書には、以下の内容を記載する必要があります。
- 相続に関する事項(相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止、特別受益持ち戻し免除、推定相続人の廃除や取り消し)
- 遺産の処分に関する事項(遺贈、寄付、信託の設定)
- 身分に関する事項(認知、未成年後見人の指定)
- 遺言執行に関する事項(遺言執行者の指定、指定の委託)
- その他(祭祀主催者の指定、生命保険受取人変更など)
先に紹介した3つの作成方法から、最適な方法を用いて遺言書を作成します。
なお、自筆証書遺言でパソコンを使用して作成するなど、作成方法を間違うと遺言書は無効となるので注意してください。
成年後見制度を活用する
成年後見制度とは、もし認知症が発症した後で正しい判断ができなくなった場合に備え、成年後見人を用意して、本人の代わりに財産管理や契約行為などをサポートしてくれる制度です。
成年後見人になるためには家庭裁判所による選任が必要ですが、家族が選任する場合が大半であり、以下の方も選ばれる可能性があります。
- 法律・福祉の専門家
- 福祉関係の公益法人
- その他の第三者
法定後見制度と任意後見制度の違い
成年後見制度の中でも、実は以下2つの種類があります。
- 法定後見制度
- 任意後見制度
法定後見とは、本人の判断能力が低下した親族などが家庭裁判所に申し立てて、本人をサポートする制度です。
一方で、任意後見とは、本人の判断能力が衰える前に、判断能力が低下した場合の契約内容に従って、本人の財産管理を行う制度となります。
本人が選んだ後見人受任者との間で、任意後見契約を締結して初めて成立するのが特徴です。
以上から、法的後見は既に認知症が発症した場合に適用でき、任意後見の場合は認知症の発症前に適用できる違いがあります。
家族信託を利用する
家族信託とは、自分の老後や介護を受けることに備えて、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託して、管理や処分を任せる財産管理方法です。
通常は遺言書で相続などの内容を決定しますが、家族信託の方がより幅広く遺産の承継が可能となり、また信頼できる身内に財産の管理を託せるため、高額な報酬が発生しません。
もし、親が認知症になった場合でも信託財産から支出したり処分したりできるなど、事前に準備しておくと本人にとっても認知症になった後でも安心できます。
先に紹介した、任意後見制度に代わる柔軟な財産管理としても高い注目を集めています。
家族信託を利用する場合、委託者と受託者間で契約書を交わして家族信託の内容について決定しなければなりません。
そして、信託用口座を開設して信託登記をおこなうと家族信託を運用開始できます。
生前贈与を行う
相続対策の中でも、効果が高い行為として生前贈与があります。
生前贈与とは、生前の段階で財産を贈与することで相続税の対象となる財産を減らす行為を指します。
生存している個人から別の個人へ財産を無償で渡すことになりますが、実際には生前贈与であっても相続税が課税されます。
生前贈与の受け取り方法として、以下2つの方法があります。
- 暦年課税:受贈者が1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額が110万円を超えた場合に、110万円を超えた分に対して贈与税が課税される制度。受贈者が相続時精算課税を申請しない限りは、暦年課税が選択される。
- 相続時精算課税:60歳以上の親などから20歳以上の子供や孫へ贈与する場合に選択できる税制。受け取った額の合計が2,500万円を超えるまで贈与税が無税となる。
遺言書は法的な縛りが多く作成が難しいものですが、生前贈与の場合は誰に何を渡すのも自分の自由に行える点が魅力的です。
相続人が認知症になってしまった場合の相続方法
相続人が認知症になってしまっても、遺言書があれば遺言書に従った相続が可能です。
ただし、問題となるのは遺言賞が用意されていない場合であり、遺産分割協議により相続内容を決定しなければなりません。
遺産分割協議については、相続人全員が参加しなければならず、また相続人全員が合意しなければ法律上無効です。
合意するためには適切な判断が必要となりますが、認知症の相続人がいると遺産分割協議の実施が不可能となります。
また、認知症の相続人の場合は相続放棄もできなくなるのです。
そこで、成年後見人を立てて相続する必要が生じます。
成年後見人を立てる
成年後見人を立てることにより、本人の代わりに遺産分割協議に参加できたり、不動産の売却時も合意を取ることができます。
ただし、認知症の相続人に法定相続分に相当する財産を用意しなければならない、成年後見人に対する報酬の支払い義務があるなどのデメリットもあります。
さらに、成年後見人になったとしても遺産分割協議をおこなうために特別代理人の選任手続きも必要です。
以上のようなデメリットがあるものの、相続人が認知症になった場合に相続する方法として有効な手段となります。
まとめ
親が認知症になったり、相続人が認知症になった場合、通常の相続とは違い多くの制限がかかります。
よって、認知症になる前に事前準備を進めたり、もし認知症になった場合への備えを進めておく必要があります。
もし、相続の事前準備でお悩みの方は、一般社団法人蓮華にお気軽にご相談ください。
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プロフィール
- 一般社団法人蓮華は高齢者様を一人にさせず、一人一人に対して真心を持って接していく会員制の団体です。 直面している社会問題を寄り添い共に考え、より良い未来を作り、 人生を豊かにしていくサポートを行っていきます。
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