人間が生きて行くなかで、人間関係で悩むことがあります。
実の親子であったとしても、人間関係が悪化してしまうケースもあるのです。
ただし、血のつながった家族である場合、人間関係の悪化により絶縁した場合でも法律上では縁を断ち切ることができない場合もあります。
では、絶縁して相続を放棄したい場合、どのような手続きをおこなえばよいのでしょうか。
この記事では、絶縁を理由に相続放棄がしたい場合、相続放棄の手順と注意点を解説します。
絶縁を理由に相続放棄はできる?
はじめに、絶縁とはどのような意味があるのかと言えば、辞書では以下となっています。
① 関係を断ち切ること。 縁を切ること。
② 導体の間に電気または熱の絶縁体を入れて、電荷の流れまたは熱の伝導を遮断すること。
②は人間関係に関する内容ではないため、①のように関係を断ち切ることを絶縁と呼びます。
人間関係における絶縁をもう少し詳細に解説すると、交友関係や師弟関係などの付き合いを絶つことを指し、絶交とも言います。
また、親子関係であれば勘当と呼ぶ場合も多いです。
法律的に、絶縁を行なう方法が定められていませんが、一般的には絶縁状を作成して相手に通知する方法がとられます。
ただし、絶縁状を公正証書で作成したとしても、法律上では効力がないため注意が必要です。
絶縁は、さまざまなしがらみから解放されたいという思いにより行われることが多いです。
しがらみという意味で、相続に関して巻き込まれたくないため絶縁したいという場合も多く見られます。
この際に、相続放棄の手続きをおこなえば、例え絶縁していなくても相続放棄は可能です。
ただし、生前に相続放棄をすることはできないため、あくまでも絶縁状態の方が亡くなった後で対応可能となります。
絶縁していても相続人になる?
故人との関係を断ち切りたいため、相続放棄を選択する以外にも、絶縁状態であっても相続人になりたい場合があります。
例えば、絶縁状態の兄弟姉妹がいるケースでは、遺産相続の話し合いにも応じたくないというケースが多いですが、遺産相続をする相続人に絶縁状態の兄弟がいた場合、基本的に全員の同意が必要となるのです。
絶縁している肉親であったとしても、仲の良し悪しには関係なく相続権を有した相続人であることに違いはありません。
遺産相続の対象となる遺産は、相続人の法定相続分に応じて共有状態となります。
当然、絶縁状態であるきょうだいなども相続人として権利を有しており、ほかの相続人が勝手に遺産相続から省くなどの行動は取れません。
遺産分割協議と呼ばれる、相続人間で会話した上で遺産分割を決める方法がありますが、遺産分割協議の内容は基本的に遺産分割協議書にまとめる必要があります。
遺産分割協議書については、相続人全員の同意と実印が必要となるため、もし絶縁した人が相続人にいる時点で、遺産分割協議書の作成は困難であり、相続することは難しいと言えます。
絶縁状態の親族との遺産相続問題|相続放棄や遺産分割の適切な対処法
分籍・除籍をしていても相続人になる
肉親との関係を解消するために、分籍または除籍という方法を採る場合があります。
分籍と除籍は、似ているようで実は異なる制度となっています。
具体的な違いをまとめた結果が、こちらです。
分籍 | 除籍 | |
目的 | 今いる戸籍から抜けて新しい戸籍を作る | 死亡、結婚などでその戸籍から籍を除かれること |
手続きをする人 | 筆頭者(及び配偶者)以外の18歳以上の方 | 筆頭者(及び配偶者) |
具体的なケース | 分籍届をする方だけが転籍をしたい場合 分籍届をする方だけが苗字を変更したい場合 子どもが親の戸籍から抜けたい場合 |
今いる戸籍から届出人が抜け出す 届出人が筆頭者となった新戸籍が作成される |
もし分籍をしている場合でも、親子関係などには影響を及ぼさないため、相続人から外れず相続の対象となります。
また、被相続人の負債を相続しない目的で分籍したとしても、相続権は消失しません。
次に、結婚などで除籍した後で被相続人が亡くなった場合、法律上の婚姻関係にある配偶者は常に相続人となるので、血縁関係のある親族のうち子が1人でもいれば配偶者と一緒に相続人となることができます。
なお、ここでいう子とは、離婚した元配偶者との間で誕生した子や婚姻関係にない内縁や愛人との間に生まれて認知された子も含まれます。
被相続人が存命中は相続放棄ができない
現在の日本の法律においては、被相続人が存命している間で相続放棄をおこなうことはできません。
なぜできないのかと言えば、不当な干渉により当人の真意に関係なく、相続の放棄を強要されるリスクがあるためです。
もし兄弟間で借金があるケースで、借金を返済できない相手に対して将来の相続権を放棄するように強要するような行為を防止するため、被相続人が存命中は相続放棄ができないのです。
相続放棄の手続き手順
相続放棄をおこなう場合、以下のような手続きで進める必要があります。
- 必要な書類を準備する
- 書類を提出して照会書を受け取る
- 照会書を返送して受理通知書を受け取る
- 受理証明書を請求して相続放棄したことを連絡する
各手続きの詳細は、以下のとおりです。
必要な書類を準備する
相続放棄するためには、まずは本当に放棄しても良いのかを吟味しなければなりません。
後で後悔しないように、慎重に検討してください。
次に、相続放棄を申述する管轄裁判所がどこかを確認しておく必要があります。
そして、具体的に手続きに必要な書類を準備しますが、相続放棄を申し込む人が亡くなった人とどのような関係であったのに対して、必要な書類が異なるのです。
ケース別に必要な書類は、以下のとおりです。
すべてのケース | 相続放棄する者が被相続人の配偶者の場合 | 相続放棄する者が被相続人の子またはその代襲者の場合 | 相続放棄する者が被相続人の父母・祖父母などの場合 | 相続放棄する者が被相続人の兄弟姉妹およびその代襲者の場合 | |
必要な書類 |
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以上を参考にして、各原本を入手して作成してください。
書類を提出して照会書を受け取る
書類の作成が完了したら、事前に確認した被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に出向き、相続放棄申述書と添付書類を提出します。
直接持参して提出する以外にも、郵便で送付することも可能ですが、裁判所によっては郵送での提出を受け付けていない場合もあるので事前に家庭裁判所に確認しましょう。
相続放棄申述書と必要書類を提出した後、10日程度で家庭裁判所より照会書と書かれた書類が送付されます。
照会書を返送して受理通知書を受け取る
照会書とは、相続人の意思であったり相続放棄を決断するに至った理由などを確認する目的で作成される質問状のことです。
一般的には、以下のような設問が記載されている場合が多いです。
- あなたは相続人とどのような身分関係にありましたか
- あなたは相続人の死亡をいつ知りましたか
- あなたは相続人の死亡をどの様な経緯で知りましたか
- あなたは遺産の全部又は一部について、これまでに、処分、隠蔽又は消費したことがありますか
- あなたが本件申述をした理由は何ですか
- 相続放棄をしたいという申し込みはあなたの意思によるものですか。
- 本件申述書(又は委任状)の署名捺印はあなたがしたものですか
- 現在も、あなたは相続放棄をする意思に変わりはありませんか
質問された事項に対して、回答を記入して家庭裁判所へ返送することになりますが、照会書の回答によって相続放棄が却下されるケースがあるのです。
よって、誠実に事実だけを回答するようにしてください。
相続放棄が却下されるケースとしては、以下のようなパターンがあります。
- 遺産を使い込んだ
- 相続財産を故意に破損させた
- 相続財産をほかの相続人に無断で改修した
- 相続財産の名義を変更した
- 被相続人の口座を払い戻して自分の口座に入金した
- ほかの相続人から脅された
受理証明書を請求して相続放棄したことを連絡する
照会書に問題がない場合、相続放棄は受理されます。
そして、10日前後で相続放棄申述受理通知書が届きますが、この書類が相続放棄が認められたという公的な証拠となる形です。
その後、相続放棄をしたことは誰かに連絡する義務はありません。
ただし、連絡が必要と判断する場合は相続放棄した旨を連絡してください。
親と縁を切る方法とは?縁切りの方法5選と相続に関する注意点を解説
勘当した子供に相続しない方法を紹介|子供との縁を切る有効的な方法
相続放棄をする際の注意点
相続放棄をする際には、注意すべきポイントがあります。
特に、以下の点に注意して進めてください。
- 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する
- 相続の発生を知った日から3カ月以内に手続きをする
- 「法定単純承認」に該当する行為をしない
各注意点について、詳しく解説します。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する
相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述しなければなりません。
場合によっては、土地勘のない場所で申述しなければならないこともあります。
一般的には、故人の被相続人の住民票によって最後の住所地が確認できますが、住民登録は死後5年が経過すると抹消されるため、住民票を発行できないケースもあるのです。
この場合は、被相続人名義の不動産を保有している場合、不動産登記事項証明書を入手すれば確認可能です。
相続の発生を知った日から3カ月以内に手続きをする
相続放棄は、いつまでも受け付けてもらえるわけではありません。
相続の発生を知った日から、3カ月以内に手続きが必要となるのです。
よって、忘れずに余裕を持って手続きを始めてください。
「法定単純承認」に該当する行為をしない
法定単純承認とは、熟慮期間と呼ばれる相続開始を知った時から原則3ヵ月以内に、相続人が相続放棄または限定承認の手続きをしないケースや、相続人が相続財産の全部または一部を処分したケースなどで、相続人が相続を単純承認と呼ばれる、被相続人の権利義務を無制限かつ無条件に承継したものとみなされる制度のことです。
具体的に、法的単純承認に該当する行為には、以下が挙げられます。
- 相続財産の処分
- 限定承認や相続放棄をしない状態で熟慮期間を経過した場合
- 相続放棄または限定承認をした後の背信的行為
上記行為に該当しないように、慎重かつ期限内に対応を図ってください。
まとめ
絶縁を理由に相続放棄する場合、今回紹介した手続きを経なければなりません。
特に、限定承認に該当する行為がないように、慎重に対応することが望まれます。
一般社団法人蓮華では、相続に関するサポートをおこなっていますので、もし相続放棄などでお悩みの方はお気軽に相談ください。
プロフィール
- 一般社団法人蓮華は高齢者様を一人にさせず、一人一人に対して真心を持って接していく会員制の団体です。 直面している社会問題を寄り添い共に考え、より良い未来を作り、 人生を豊かにしていくサポートを行っていきます。
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