絶縁状態の親族との遺産相続問題|相続放棄や遺産分割の適切な対処法

絶縁状態となった親族の間では、様々なトラブルが表面化します。

人間関係の悪化により、罵詈雑言が飛び交うケースもあれば、お互い口も聞かずに疎遠になってしまうケースもあるのです。

そんな中で、絶縁状態の親族との遺産相続問題は切っても切り離せない問題となりがちです。

単に疎遠になるだけならまだしも、遺産相続問題に発展すると収拾がつかない事態に陥る可能性があります。

では、遺産相続問題に対してどのような対応を図ればよいのでしょうか?

この記事では、絶縁状態の親族との遺産相続問題に対して、相続放棄や遺産分割の適切な対処法などを紹介します。

親族と絶縁状態の場合、相続権はどうなる?

親族と絶縁状態であったとしても、相続権については基本的に通常の形と変わりません。

もし、人が亡くなられた場合の相続人は、生前の故人との関係ではなく法律で決まる形です。

よって、親や兄弟姉妹などと絶縁している場合であっても、絶縁はあくまでも当事者間の問題であって、相続とは無関係です。

もし、何十年も疎遠状態であったとしても、相続権については変わりはありません。

相続人は法律によって決められている

相続人については、遺言書に特に指定されていない限りは、民法に定められた内容に従います。

民法では、相続人になる人の順位や範囲、受け継ぐ相続分が事細かに決められています。

法定相続として決定された相続人のことを、法定相続人と呼ぶのです。

法定相続人となれるのは、配偶者と子、父母、兄弟姉妹だけです。

もし遺言が残されていないケースでは、内縁の妻や夫、親族であったとしても叔父や叔母などは遺産を受け継がれませんので注意してください。

また、以下の順番で相続人が決定し、もし上位者がいる場合は下位者は相続人となれませんが、配偶者は常に相続人になれます。

  • 子(第1順位)
  • 父母(第2順位)
  • 兄弟姉妹(第3順位)

親族の生前時に相続放棄はできない

親族と絶縁していたり、借金があって相続したくない場合などで、相続を放棄したくなる場合があります。

相続放棄という手順を踏めば相続を放棄することができますが、実は相続放棄は亡くなられた後におこなうことができるものです。

よって、生前の段階では相続放棄できません。

例えば、ほかの相続人より相続しない旨の念書を作成して相続放棄するというケースが見られますが、実は念書に法的な効力がありません。

よって、もし相続人が被相続人が亡くなられた後に相続権を主張した場合、念書を根拠として相続できないと反論しても、法的には認められないのです。

また、相続放棄は家庭裁判所に申請しておこないますが、生前の相続放棄は法律で認められていない関係上、生前に申請したとしても通ることはありません。
相続放棄の手続き手順とは?期限や必要書類について徹底解説!

絶縁状態の親族の死亡が発覚するケース

絶縁状態の親族の死亡が発覚する場合として、孤独死を遂げた場合などがあります。

その場合、もし相続人となっている場合は、負債も承継されます。

例えば、孤独死ですでに腐乱状態で発見されると、賃貸の場合はハウスクリーニング等をおこなわなければなりません。

その際に、貸し手側としては相続人に対して、ハウスクリーニングなどの費用を請求する形となります。

これは、絶縁状態であったとしても相続人に課されるものであり、どうしても負債を抱えたくない場合は相続放棄の手続きをおこなわなければなりません。

絶縁状態の親族の相続を放棄する方法

絶縁状態の親族の相続を放棄したい場合、真っ先に思いつく方法が絶縁状を送付して関係を断ち切る方法を取りたいと考えがちです。

ただし、絶縁状には法的効力を持たせることができず、法的に血縁関係を断ち切る方法は存在しないのです。

例えば、一方的に絶縁状を送りつけた親が、実は莫大な借金を抱えていたことが判明したとします。

この場合、自分としては絶縁状を理由に負債の相続を放棄したいと考えていても、それは通用しません。

絶縁状はあくまでも意思表示の手段の1つであって、法的には血縁関係を解消できません。

どうしても親が残した借金の返済を免れるためには、相続人である人が家庭裁判所に相続放棄の申立てする必要があります。

相続放棄について改めて説明すると、遺産を一切相続しないという意思を表示のことです。

相続放棄すれば、法律上は初めから相続人ではないものとみなされて、すべての相続権を失います。

第939条

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

初めから相続人とならなかったものとみなされる関係上、相続放棄した相続人の直系卑属に対しては代襲相続権が発生しません。

また、相続放棄の効果には絶対効があることから、その効果を第三者にも対抗できます。

相続放棄は、原則として相続の開始を知った時より3カ月以内におこなう必要があります。

第915条

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

この3カ月の期間のことを熟慮期間と呼び、もし熟慮期間が経過すると原則的に相続放棄が認められません。

ただし、実際には家庭裁判所の判断によって例外が認められる場合もあります。

相続放棄が受理されないケース

相続放棄が受理されないケースとしては、被相続人がまだ生前の段階である場合があります。

また、以下のようなケースで相続放棄が受理されない場合があるのです。

  • 相続放棄の手続きに不備があった場合
  • すでに相続を承認している場合
  • 詐欺や脅迫による申し立ての場合
  • 制限行為能力者による相続放棄の場合

相続放棄の手続きにおいて、ルールに従った申請でない場合は却下されます。

手続きの不備としては、書面の記載漏れや費用の未納、相続放棄申述期限の超過などが多いです。

すでに相続を承認している場合とは、相続を承認しているケースと相続を承認しているとみなされるケースも該当します。

相続の承認や放棄は原則として撤回不可能であり、相続を承認した後は相続放棄不可能です。

相続を承認しているとは、正確には単純承認または限定承認をおこなったケースを指します。

単純承認と限定承認の違いは、以下のとおりです。

  • 単純承認:被相続人の土地の所有権などの権利や借金などの義務をすべて受け継ぐ方法
  • 限定承認:被相続人の債務額や残る財産の額になるか不明な場合、相続により得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ方法

単純承認の場合、口頭で宣言すれば承認されます。

一方で、限定承認の場合は相続開始を知ったタイミングより3か月以内に、家庭裁判所に申述して初めて認められます。

ほかにも、詐欺や脅迫による申し立て、制限行為能力者による相続放棄では受理されないので注意しましょう。
「絶縁」を理由に相続放棄がしたい!相続放棄の手順と注意点を解説

絶縁状態の兄弟がいる場合、遺産分割はどうすればいい?

絶縁状態の兄弟がいる場合は、遺産分割はどうすればいいか悩みがちです。

遺産分割が進まない場合が多い中で、遺産相続のためにおこなう遺産分割協議は、相続人全員の同意が必須です。

よって、絶縁状態にある兄弟であっても、その兄弟を外して進められません。

ここでは、以下のパターン別に遺産分割を進める方法を紹介します。

  • 連絡先や住所が分かるとき
  • 連絡先や住所が分からないとき
  • 消息不明のとき

連絡先や住所が分かるとき

兄弟の連絡先を把握している場合、以下の方法でアプローチするとよいでしょう。

  • 電話やメールなどを用いて対面しないでやり取りする
  • 手紙を用いて遺産相続の連絡をする
  • 弁護士に代理を依頼する

遺産分割協議の場合、必ず対面で会話しながら進める必要はなく、電話やメールで連絡可能です。

ただし、メールや電話の場合は絶縁した相手の連絡先を知らないと対応できないデメリットがあります。

また、電話やメールにより遺産相続の話を進める場合、齟齬が生まれがちです。

遺産相続の会話をおこなう中で食い違いが生じたケースでは、絶縁の遺恨によりトラブルに発展するリスクもあるので注意してください。

メールや電話以外の方法としては、手紙でやり取りするケースもあります。

手紙であれば、電話番号やメールアドレスを把握していなくても、住所さえ分かれば対応可能です。

手紙で連絡をとる場合、その後の遺産相続の話し合いをどのように進めるのかを事前に決めておく必要があります。

また、手紙を介して遺産相続について会話することには限界があって、やり取りにかかる時間がとてもかかる点もデメリットです。

どうしても、兄弟と直接やり取りしたくない場合は、弁護士に代理してもらう方法もあります。

代理してもらう過程において、遺産分割協議も弁護士が対応してくれるメリットがあります。

また、遺産分割協議書の作成なども依頼可能です。

手続きや連絡を含めてすべて一任でき、うまく仲裁してもらえる点が魅力的ですが、当然費用がかかる点は考慮しなければなりません。

連絡先や住所が分からないとき

絶縁した兄弟の生存は確認できている中で、連絡先を知らないというケースでは、まずは行方不明の兄弟の連絡先を調べる動きを取ります。

ただし、実際には住所が特定できない場合が多いのです。

もし、連絡先が把握できてない兄弟がいる場合は、不在者財産管理人を立てて遺産分割協議への同意を裁判所に認めてもらえば、遺産相続手続きを進められます。

不在者財産管理人とは、行方不明状態の相続人の代わりとなって、財産を管理が可能な代理人のことです。

不在者財産管理人は、配偶者や相続人などの利害関係者からの申し立てによって、家庭裁判所が不在者財産管理人を選任する形となります。

そして、選任された不在者財産管理人が遺産分割協議に参加すれば、遺産分割を進められます。

消息不明のとき

相続人に該当する兄弟が遺産相続のタイミングで生死が不明な場合、失踪宣告することで遺産相続人から除外可能です。

失踪宣告とは、生死不明の人物に対して、仮に亡くなったものとして扱う裁判所手続きのことです。

行方不明となっている人物の財産については、長期間放置されてしまいます。

本人が不在であるため、不動産の売却などは困難となり、預金の引き出し時も煩雑な手続きを吹く必要があります。

家族にとっては、財産管理の負担も生じるため失踪宣告によって行方不明者を仮に亡くなったものとしてみなし、相続により財産整理できるようになります。

これは、行方不明となった兄弟が生存していても、問題はありません。

絶縁した兄弟の生死が把握できないケースでは、失踪宣告されてから7年で死亡したものとして扱われます。

失踪宣告されて被相続人より前に亡くなられた場合、絶縁した兄弟は相続と関係なくなるのです。

もし絶縁した兄弟に子や孫がいるケースでは、子や孫が代襲相続します。

絶縁状態の兄弟に相続させたくないときの対処法

絶縁状態の兄弟に、どうしても相続させたくないと感じる場合があるでしょう。

この場合、以下の方法で相続させないようにできます。

  • 遺言書を作成してもらう
  • 相続放棄を提案する
  • 「相続廃除」制度を利用する
  • 「相続欠格」に該当しないか確認する

各方法の詳細は、以下のとおりです。

遺言書を作成してもらう

最も確実かつ、手軽に相続させない方法として遺言書を作成してもらう方法があります。

遺言書に記載された内容が最優先となるため、相続財産を承継させたくない兄弟などに対して、相続をしないまたは相続分はなしと指定可能です。

遺言書、遺留分を請求する権利を有していない被相続人の兄弟姉妹に対して有効となりますが、被相続人の配偶者や直系尊属・直系卑属にあたる相続人へ付与されている遺留分は、侵害できません。

相続放棄を提案する

相続させたくない兄弟に対して、相続放棄を提案して相続放棄してもらう方法もあります。

ただし、絶縁状態の兄弟に提案すること自体のハードルが高く、現実的な方法ではありません。
親と縁を切る方法とは?縁切りの方法5選と相続に関する注意点を解説

「相続廃除」制度を利用する

相続廃除とは、被相続人の請求または遺言に応じて、遺留分の権利がある推定相続人の相続権を剥奪できる制度です。

廃除が認められるケースとしては、遺留分の権利がある推定相続人が被相続人に対して虐待したり、重大な侮辱を加えたりした場合、または推定相続人にそのほか著しい非行があったケースです。

虐待とは、被相続人に対する暴力や耐えがたい精神的な苦痛を与えることを意味します。

重大な侮辱とは、被相続人に向けられた行為となり、被相続人の名誉や感情を害するものを指します。

推定相続人の言動が、虐待や重大な侮辱に該当するかどうかを判断する場合、当該する言動をとった理由や責任の所在、一時的な行為であったかどうかなどの事情が考慮される場合が多いです。

そのほか著しい非行とは、被相続人に対して精神的に苦痛や損害を与える行為の中で、虐待や侮辱に匹敵する程度のものを指します。

虐待侮辱と違って、著しい非行には直接被相続人に向けられたもの以外も含まれるのが特徴です。

申し立てたい場合、家庭裁判所において推定相続人廃除の審判申立書を入手し、必要事項を記入して申し立てをおこないます。

「相続欠格」に該当しないか確認する

相続人の行動により、法律に従って遺産を相続する権利が剥奪される相続欠格を利用する方法があります。

相続欠格とは、相続人が遺産を相続する権利を剥奪される制度のことです。

相続欠格が適用されることで、適用された相続人本人は一切の遺産の相続ができなくなります。

また、遺産の最低限の取り分となる遺留分を受領できる権利も喪失するのです。

ただし、相続欠格の適用を受けた方に子供がいるケースでは、子供が欠格者に代わって遺産を相続できます。

相続人に対して大きな影響を及ぼすことができる相続欠格ですが、適用する上で民法において以下に該当しないと適用できません。

第891条

次に掲げる者は、相続人となることができない。

故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

上記に該当するかどうかをよく確認して、適用できる場合はうまく適用して絶縁状態の兄弟に相続させないようにできるのです。
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まとめ

絶縁状態の親族との遺産相続は、通常の遺産相続以上に困難なことが多いです。

そこで、今回紹介したような方法や注意点を加味して、円滑に進めることが重要です。

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